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Mac ON! 1998 May
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岡山県 藤井健喜
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WH209
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1998-03-27
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19KB
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354 lines
第九話
まるごと遊園地でのデートブック
Introductry Remarks
田辺奈美と吉野冴子は平凡な高校生である。
あるとき、田辺浩一の開発した『ヒーロー変身薬』を飲んでしまった二人は、ビキニスタイルの恥ずかしい格好のヒーローとなって、世界征服を企む悪の秘密組織『ダークブリザード』と戦うことになる。
人は彼女たちのことを『ウイークエンド・ヒーローズ』と呼ぶ。
今日、彼女たちを待ち受けているものは一体何なのか…?
1
文化祭のとき、孝夫が美紀と接吻したと勘違いした奈美は、以来孝夫を避けるようになっていた。誤解が誤解を招いてややこしくなっていた。
「ねえねえ、聞いた聞いた?」
「なになに?」
同じ言葉をなぜか繰り返すのが好きなのが最近の日本人である。
「普通科二年B組の田辺さんとC組の田村君、もう破局なんだって!」
「え〜! うっそ〜! 信じらんなーい!」
こんな噂が学校中を駆けめぐっていたくらいである。
「何でもよ、田村に一歳になる隠し子がいたらしいぜ!」
「へえ、マジかよ!」
噂が噂を呼んでわけがわからなくなっていた。
「田辺さんも田辺さんよ。実は女子大生と恋仲だったっていうじゃない」
「いやあ、不潔ねえ!」
噂とは恐ろしい。
だが、いずれは跡形もなく消え去ることだろう。人の噂も七五日というではないか。
そんな状況の中で、今回の話はスタートする。
文化祭の翌日の放課後、といういかにも説明口調な文章。
場所は東児島大学の構内にある大学食堂。
吉野冴子は佐久間俊雄と会っていた。二人は店の奥に座り、紅茶をを飲んでいる。
この食堂のお勧めメニューは豚カツ定食である。肉が柔らかいとの評判だ。また、値段の割には量がある、ということも評価を高めるのに一役買っていた。また、日替わり定食Aにラーメン定食も好評である。
って、前にも似たようなことを書いたような気がするな…
さて、二人は紅茶を飲んでいる。
「それで、その後、あの二人はどうなった?」切り出したのは俊雄の方だった。二人の話題は決まっていた。
「誰?」冴子が訊く。
「奈美ちゃんと田村君だよ」答える俊雄。
「ああ。全然駄目。奈美なんか、孝夫に会いたくもないって」冴子は紅茶を飲む。
「そうか」俊雄は頭を抱える。「いやあ、まいったなあ…」
冴子のしゃべりは止まらない。「もう奈美と孝夫の関係は公認って感じで、孝夫のFCも解散して、もうどうにでもしてくれっていう雰囲気だったのに…ほんと、あの二人って不器用ねえ」
「…」そこまでいうか、と思う俊雄であった。「そ、そうかい」
孝夫のファンクラブはすでに解散していた。会員の中にはひがむ者もいたとか。奈美に不幸の手紙を送りつける奴などもいたと聞く。だがもうそれも収まりつつあった。たまに奈美に蹴りを加える女子生徒がいる程度だった。
孝夫に対するファンレターの山もなくなり、冴子としてはホッとしていたところであった。それが、今度来た転校生たちのせいで、再び変に蒸し返された形となった。一難去って又一難。ついには奈美と孝夫との関係が危機的状況に陥ってしまった。
「奈美って、ああ見えて実はものすごく嫉妬深いの」冴子がいう。「もう猫も真っ青なくらいよ」
「奈美ちゃんは、本当に孝夫君のことが好きなんだろうな」
「そうね」と冴子。「旧孝夫FC会員にあんなひどい仕打ちをされてもくじけないんだもの…」
「何か、二人を仲直りさせる方法はと—」俊雄が静かに切り出す。
「それを考えようと思って、佐久間さんの知恵を借りに来たの」
「俺の?」
「そう」うなずく冴子。
〈本当は、佐久間さんに会いたかっただけなの…〉とはいえない。
「こういうことの解決策を見つけるのは、君の方がうまいじゃないか」
「だ、だけど…」冴子は悩む。ところが、突然ひらめいたように、「そうだわ!」
「何かいい手段でもあったか?」
「ねえ、こんなのってどう?」
「何を?」俊雄が尋ねた。
「それは—」冴子は俊雄に耳打ちする。
内容を聞いた俊雄は半信半疑に口を開いた。「…そんなこてで、うまくいくものだろうか?」
「たぶん大丈夫。あとのことは、私に任せて」冴子は自信ありげにいった。
「わかったよ」
少し沈黙が二人を支配した。
「佐久間さん」今度は冴子が切り出した。
「どうした?」
「…」
「ん?」俊雄は首を傾げる。
「…これ、あげます」
冴子が上着の胸ポケットから取り出したのは、一枚のチケットだった。
「何だい?」顔の長い男が訊いた。
「喫茶『バヨエーン』のチョコパフェ無料券です」短い髪の女の子が答える。この喫茶は駅前にある。
「無料券?」
「はい」
「じゃ、もらっとくよ」
「ありがとうございます」
内心、ここでいわないといけない台詞がいえなくて、冴子は焦っていた。
—だから、今度、二人でチョコパフェ食べに行きませんか?
こういう筈だった。
ところが、結局、彼女はいえずに立ち上がった。
「それじゃ、失礼します」
「ああ」
冴子は食堂をあとにしてしまった。体が勝手に動いている感覚だった。
「うまくいくかねえ…」俊雄はチケットを眺めていた。
〈あー、冴子の大馬鹿者〜!〉外に出て地団駄踏む冴子だった。
その翌日。
奈美と孝夫に冴子から各自に話があった。近くにある遊園地に遊びにいこうというものだった。冴子は日時を指定して、二人から快諾を得た。奈美たちには、それぞれ相手の名前は持ち出してはいなかった。
二人は純粋に冴子と二人で遊びに行くものだと思っていた。
冴子からの誘いなので、二人とも断ることが出来ないという事情もあったが。
怖くて…
2
文化祭の四日後。土曜日。
昼下がりのことである。
奈美はいわれたとおりの場所で冴子を待っていた。
そこに来たのは冴子ではなかった。
「た、田村君…」
「田辺…」
しばらく二人は黙っていた。
だが、いくら待っても冴子は現れなかった。
沈黙が流れた。
やがて孝夫が口を開いた。「冴子に一本取られたみたいだな」
「え?」
「これは、僕らに楽しんで来いってことだろうな」
「え?」
仲直りさせたいんだ、と孝夫はいわなかった。彼としても、もう奈美とは喧嘩してもしょうがないと思っていた。だが、どうも素直に言葉が出てこなかった。
彼は静かにいった。
「じゃあ、行こうか」
そっと、奈美の手を握る。
〈え…!〉
奈美は急に胸が高鳴った。
「た、田村君…!」
すでに奈美は今までのことを忘れていた。
「行こう」
「ええ…」
奈美はこくりとうなずいた。
奈美と孝夫は市内にある遊園地に行く。無理矢理行かざるを得なくなったという感じではあったが。
日本には娯楽施設が少ない。あるのは、さえないパチンコ店と、しけたレジャーランドばかりである。
いっときのレジャーブームは過ぎ去り、本来の意味での娯楽探求が始まろうとしている。これにしくじると、この先苦しい。
要するにこの国はつまらないのだ。面白みのある国なら、もう少し魅力的に映るはずである。アメリカのような消費型レジャーは元来日本人の気質には合わない。自らリラックスできる環境を用意することこそ先決である。
さて。
遊園地にいるあいだじゅう、二人はどうもぎこちなかった。
本来なら、ジェットコースターやフリーフォールといった絶叫マシーンが定番なのだろう。が、今は二人ともそんな物に乗る気分でなかった。特に奈美はそうすると返って照れてしまう自分が想像できて、恥ずかしいのだった。
本当は孝夫に甘えたい自分がいるのに、一方でそれを許さない自分がいる。他の女と接吻したことに嫉妬する自分がいる。けれども他方、それでも孝夫が好きだという自分がいる。
奈美の心の中で相反する心理が激しく葛藤するのだった。
〈ごめんね、田村君…〉
そっと孝夫に顔を向けながら、彼女はそう思うばかりだった。思うことは出来ても、口に出していえない奈美であった。
よい天気である。
ここは同じ遊園地内。駐車場の西にある催し物会場である。
ちょうど今、『札束戦隊ミラクル・マネー』ショーが行われていた。要するにキャラクターもののヒーローショーである。
悪の組織の戦闘員が会場に来ていた子どもたちを捕まえて舞台の上に連れ出している。一〇人、集まっていた。
子どもたちの中には本気で怖がっているものもいた。
「これから人数の確認をする」大柄な男ががなった。白いドクロの面をかぶっている。この組織の総帥らしい。実際そういう立場の人間だ。ミスター・シャレコウベという。隣にいるのはふるえている幼稚園児だった。
「さあ、横から順に、番号!」ドクロの男が命じる。
最初の子どもがいった。「〇八六の〇二の一〇××」
ミスター・シャレコウベはこけた。よりによって、もっとも古典的なギャグをかまされてしまった。
「電話番号をいってどうするんだ…」彼は立ち上がった。「番号ってのは、自分が何番目かという意味での番号だ。わかったな」説明する。「それじゃあ、もう一度、番号!」
「一」
「一〇」
再び総帥はこけた。またもや古典的なギャグをやられてしまった。
「君は二番目だろ…」彼はいう。「だから『二』といえばいいんだ。わかったな」説明する。「それじゃあ、もう一度、番号!」
「一」
「二」
「三」
「四」
「五」
「六」
「七」
「八」
「九」
「一〇(じゅう)」
「一一(じゅういち)」
「一二(じゅうに)」
「一三(じゅうさん)」
「一四(じゅうよん)」
「おい、終われよ」総帥役の男がいった。「一〇まででいんだよ。一〇人しかいないだろ、君たちは」
連呼は終わった。どうにか、人数確認は完了した。
ショーは続いている。
「おまえたちは我ら『死ね死ね財団』の部下となるのだ!」ミスター・シャレコウベが怒鳴る。それにしてもすごい名称だ。
そこへ、
「待て!」そんな声がしたかと思うと、舞台の端から、五人のスーツ姿の男女が現れた。ミラクル・マネーの面々である。
「あっ、おまえたちはミラクル・マネー!」ミスター・シャレコウベが叫んだ。
「子どもたちを離しなさい!」
「何をこしゃくな! ゆけスナイパーども!」
「ヒューッ!」戦闘員たちはかけ声とともにヒーローに襲いかかって来る。しかしヒーローは鮮やかな動きで彼らを破った。
「おのれ〜!」ミスター・シャレコウベはうなった。
「覚悟しろ、ミスター・シャレコウベ」ヒーローのリーダー格の男がいった。赤い戦闘服を着ている。レッド・マネーと呼ばれている男だ。
「うぬぬ…」うなる総帥。
「ふっ、その程度のことじゃあ、真の悪は名乗れないドロォーッ!」
突如全身泥にまみれた男が現れた。黒装束の集団が周りをとりまいている。舞台の上、ヒーローたちの向かい側だ。
「私の名はヘビー・ダート!」泥まみれの男がいった。
「きゃあ!」舞台の子どもたちは悲鳴をあげた。
「うわあ、本物の怪人だあ!」会場にいた大人たちも絶叫した。
ダークフィアー、ヘビー・ダート。 泥で出来た怪人。泥を相手に投げつけて攻撃する。この泥は相手を固めてしまう作用があった。
「ブラボー!」黒装束の集団が群衆を捕まえにかかった。別名、『ブラボー混声合唱団』ともいう。またはブラボー隊。
そのころ。
奈美は孝夫と園内を歩いていた。
不意に腕時計が鳴った。いつもよりワンランク低い音だ。ビブラートがかかっている。
〈こ、これは…!〉慌てる奈美。
腕時計に搭載された新機能、『ダークブリザード関係者感知ブザー』の音である。東児島市内に現れたダークフィアーなどに反応するようになっているのだ。つまり市外であった場合は反応しないのだ。まるでサービス開始直後のPHSだった。
「奈美、聞こえる?」イヤホンから声がした。冴子だった。
「ええ、聞こえる」ペンダントで応答する奈美。こっそりと話す。「どうしたの?」
「大変よ!」冴子がいう。「ダークフィアーが現れたわ! ちょうどあんたのいる遊園地によ!」
「え!」思わず奈美は大声を出してしまった。「どうして、こういう時にこういう場所で現れるのよ!」
「…どうかしたのか?」横で驚いた孝夫が振り向く。
「い、いや、何でもないの」声の調子が戻る。
「場所は、そこの特設ステージよ」冴子の声は続いていた。「私も今からそっちに行くから、上空で待ってて」
「ねえ」奈美は不思議そうに訊く。「冴子の時計って、もしかして位置までわかるの?」
「おおよそだけどね」答える冴子。矢印と距離が表示されるようになっている。「奈美のは、そんな機能ないの?」
「…」言葉に詰まる奈美。
2号の腕時計の方が高機能なのだろうか?
あとから出てくるものの方が高機能になっているというのは、ものの宿命だ。あきらめるしかなかろう。
ただ近頃は、あとから出てきた品の方が機能は減り、質が下がっているということの方が多い。気になる傾向だ。
かつてはQCサークル等、製品及びサービスの質の向上に情熱を傾けていた国が、いったいどうしてしまったというのか?
「とにかく、奈美、変身して戦うわよ!」イヤホンから声。
「わかったわ」ささやく奈美。連絡が切れる。
「どうしたんだい?」孝夫が訊いてきた。今さっきから何をひとりでぶつぶつ喋っているのだろう? 彼は奇妙に見ていたのだ。「具合でも悪いのかい?」
奈美は悩んだ末、「あの、田辺君。ちょっと、トイレ…!」
「いいよ」
奈美は駆けていった。
孝夫はそばにあったベンチに腰掛けた。
「ああ、今まで我慢してたのか」そう思いながら。
奈美は近くのトイレの中で変身。飛び上がった。
空中で2号とおちあう。
「さあ、行くわよ!」冴子がいった。
「ええ!」奈美も同調する。
二人は現場に向かった。
3
現場はパニックになっていた。
「さあ、おまえたちは我ら『ダークブリザード』の部下となるのだドロォーッ!」
ヘビーダートがいったときだった。
「お待ちなさい!」二人が同時に叫んでいるようだった。ともに女の子のようだ。
「むっ、何奴!」ヘビー・ダートが首を動かす。がしかし、何も見えない。
声だけが聞こえている。
「東児島の空のした、今日も誰かが呼んでいる」やはり女の子の声だった。
「悪い奴等を懲らしめる、正義の味方の女の子。その名も—」今度は別の声。
みると、舞台の横、高さが六メートルほどある場内アナウンス用の屋外スピーカーのてっぺんに、二人の女の子が寄り添うように立っていた。マントで前を隠している。
スピーカーを支えている鉄柱がよく折れないなと思う。
「ウイークエンド・ヒーロー、1号」ひとりがマントを翻す。エメラルドグリーンのビキニを着用した女の子だった。ハイパーガールである。
「同じく2号!」もうひとりが同様のポーズを取る。エクセレントガールだった。
最後は再び二人で叫んだ。「ウイークエンド・ヒーローズ、只今見参!」二人なので、名称も複数形に変化していた。
「おお!」場内からどよめきが起こった。「これも本物だ!」
残っていた人々から拍手が起こった。ちょっと照れる奈美たちだった。
ピシッ…!
二人のいる下方でそんな音がした。
「え?」奈美は下を向く。
「危ない!」音の原因を悟った冴子が叫んだ。鉄柱にひびが入ったのだ。
予想通り鉄柱が傾いてきた。
「きゃあ!」場内から悲鳴。
奈美たちは飛び降りた。
大きな音とともに鉄柱は折れ、倒れてしまった。
柱は舞台の背後の壁に穴をあけた。
幸い、怪我人はなかった。
「おいおい…」黒タイツ姿の男性がつぶやく。戦闘員の人だ。「俺たちよりあくどいんじゃないか、ありゃ…」
「うーん…」否定できない奈美だった。
それでも彼女はいう。「み、みなさん、早く逃げてください!」観覧席に降り立ち一般客を導いている。混乱を助長したのはおまえらだろ、という気がしなくもない。
再び会場は悲鳴に包まれた。逃げまどう人々。
観客は忙しかった。
場内は混乱している。
「観客が逃げます!」戦闘員のひとりが怪人に告げ口する。それは見ればわかることだ。
「おのれ、ウイークエンド・ヒーローズ…!」ヘビー・ダートは歯がゆそうだった。「ゆけ、ダークウォリアーズよ!」
「ブラボー!」
ダークウォリアーズのメンバーが飛び上がった。一般客を狙っているのだ。
「あっ、危ない!」奈美は思わず叫んだ。「襲ってくるわ!」
「そうはさせない!」
エクセレントガールが回り込む。戦闘員らは目標を変更せざるを得なかった。
ヘビー・ダートが怒鳴る。「エクセレントガールを八つ裂きにしてしまえ!」
「ブラボー!」迫り来る戦闘員たち。
「これは私に任せて!」
冴子はマントを手繰り寄せた。そして腰をくねらせ、エクセレントリングを回した。高速回転する武器は、襲ってきた覆面集団を寄せ付けない。逆に彼らは、はじかれていた。「ブラボー!」叫び声をあげつつ倒れる戦闘員。彼女の活躍でダークウォリアーズの面々は消滅してしまった。
客はすべて避難した。もう場内近辺に人の姿はなかった。
舞台の上に立つ奈美と冴子。少し離れた位置に怪人が立っていた。うなだれていた。
「ダークブリザード」奈美が指差していう。「あなたたちの悪巧み、このハイパーガールが成敗するわ!」
「さあ、観念なさい!」続けて冴子がいう。
怪人と対峙するウイークエンド・ヒーローズの二人。
怪人は顔をあげた。
「くそっ、許さないドロォーッ!」
怪人はエクセレントガールに向かって口から泥を吹き付けた。
泥は彼女の手足を覆うように付着。とたんに彼女の動きが鈍くなってきた。
「な、何よ、これ…!」焦る冴子。「体が、動かない…!」
「え…!」奈美が叫ぶ。
「ははは、驚いたか!」ヘビー・ダートがいう。「俺様の吐き出す泥は、いわばコンクリートみたいなものなのだドロォーッ!」
「コンクリート!」驚く奈美。
「どんどん固めてしまいには動けなくなってしまうのだドロォーッ!」
「ええっ!」冴子は目を見張った。
「エ、エクセレントガール…!」焦る奈美。
「心配しないでハイパーガール」冴子がいう。「早く、その怪人をやっつけるのよ」
「わかった」
「そう簡単にはいかないドロォーッ!」
「私は怒ったんだから…!」奈美がいう。目が真剣だった。
「ふっ、おまえも道連れだドロォーッ!」
怪人が口をすぼめた。
同時に奈美は怪人に向かって突進する。「必殺—」
「何…?」予想外の展開に動揺するヘビー・ダート。
奈美は怪人の足をつかむとぐるぐると回転し始めた。
「ドロォ…?」
「ハイパーハリケーン!」彼女はそのまま怪人を放り投げた。
「ド、ドロォーッ…!」
ダークフィアーは空のかなたへと消えた。
エクセレントガールに付着していた泥は音もなく消えた。彼女は元の姿に戻った。
「冴子!」奈美がいう。うれしそうだ。「戻ったのね」
「あなたのおかげだわ」冴子は奈美にほほえんだ。「ありがとう、奈美」
空は夕焼けだった。
「それじゃ、奈美」冴子がいう。「あとは、デート、がんばってね」
「全く、冴子にまんまとのせられたものね」
そう奈美がぼやいた横で、ニヤリとする冴子だった。
遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえていた。逃げ出した観客が通報したのだろう。
「戻ろうか?」冴子がいった。
「うん」奈美はこくりとうなずいた。
二人はマントをはためかせながら飛び去っていった。
こうして、ダークフィアーはウイークエンド・ヒーローズによって退治された。
4
ダークブリザード本部。
「ドクターダイモン! ダークフィアー『ヘビー・ダート』はウイークエンド・ヒーローズにいとも簡単に倒されてしまったぞ!」ブリザードがいった。
「も、申し訳ございません! 閣下!」謝っているのはドクターダイモン。
ブリザードはぼやいた。「またやられてしまった!」
「申し訳ございません…」
「よいか、次こそは、奴等の息の根を止めるのだああぁ…!」
余談だが、彼の命令言葉には、最近エコーがかかっている。
ダイモンはひれ伏した。
「ははーっ!」
5
夕方である。
閉園時間はまだ先だったが、家族連れなどが帰りはじめ、園内は人が減っていた。
化け物が現れたことで遊園地で緊急の記者会見が行われ、経営者が謝罪した。少し騒然となったのは事実だった。
「ウイークエンド・ヒーローズが現れたんだって!」
猪俣祐二はカメラ片手に取り乱していた。車から飛び降り現場に駆けつけたが時すでに遅かった。
「しまったなあ、まさかこんなところにダークフィアーが出るなんて…!」独りごちていた。
いつもはダークフィアーが現れると真っ先に現場に駆けつける彼であった。学生時分はその速い足でならした男である。
だが、最近はそのダークブリザードの動きが読めなくなっていた。いわば神出鬼没になっていたのだ。結果、ウイークエンド・ヒーローズの出現現場を押さえにくくなっていた。これは『ウイークエンド・ヒーローズ番』と自他とも認める彼としてはやるせなかった。それはまた彼と同じ立場の多くの報道記者にいえることだった。
〈まさか、ダークブリザードの連中に、次回の出動場所を訊くのもなぁ…〉
彼はため息ひとつつき、帰り始めた。
夕焼けがきれいである。
奈美が戻ってきた。
奈美を見つけた孝夫はベンチから立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、遅くなって…」奈美がいった。
「いや、気にしてないよ」
「田村君…」
「何だい?」
「…文化祭のときのこと、ごめんなさい」
やっといえた。この言葉が。
すると孝夫が返した。
「…あれは僕のほうこそ謝らないと—」
「田村君…!」
「田辺、すまなかった」彼がいう。「あれは、本当はキスなんかしてないんだよ…」彼女を見、「でも、『李下に冠を正さず』だよね。紛らわしく見えたのなら、謝るよ」
素直な男だった。
「た、田村君—」
「誓っていう。もうあんなことはしないよ」
「田村君…!」
奈美はそっと孝夫に寄り添っていた。
遠くで二人を見ていた男女の姿があった。
俊雄と冴子だった。実は来ていたのだ。
「丸く収まったみたいね」冴子がいう。
「いやあ、よかったよかった」俊雄はホッとしていた。
「次は私たちね…」冴子がつぶやいた。
「え?」
「ううん」冴子はわざと首を左右に振り、「何でもない…」
空を見上げると、まだきれいな夕焼けを見ることが出来た。
同じ頃。
深沢公平の自宅である。市内のアパートの一室だ。
「田村って男、案外ロリコンなのかもね」由衣がいう。
「そう明快に結論づけられても困るわ」美紀がいった。
二人は家に帰っていた。
「簡単に仲直りしたそうじゃない?」と由衣。不満そうだった。
「らしいわね」どこからそんな話を聞いたのだろうと思う。
「田辺奈美を精神的に追い込む…はずが、どうしたことかしら?」笑う妹。
姉は毒づく。「悪かったわね」
また別の手を考えないと—そう思う美紀だった。
次回予告
ちづる「先輩、大変です! エクセレントガールがダークブリザードの一員になってしまうんです!」
奈美「そんな馬鹿なことないわ、ちづるちゃん」
冴子「そうよ。現に私はここにいるし」
ちづる「え? 2号って、あなたなんですか?」
冴子「あ…! いや、そういう訳じゃなんだけども、虎穴に入らずんば塞翁が馬っていうことにでもしといて」
ちづる「はあ…?」
奈美「次回ウイークエンド・ヒーロー2第一〇五話『ウイークエンド・ヒーロー レスキューマニュアル』正義は週末にやってくる—」
冴子「もうそんな回数になるの?」
奈美「あっ、間違えた」
ちづる「では改めてもう一度。次回ウイークエンド・ヒーロー2第一〇話『ウイークエンド・ヒーロー レスキューマニュアル』正義は週末にやってくる—」
冴子「じゃ、またね〜!」
1997 TAKEYOSHI FUJII